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第28話 叙任式典

Penulis: 青砥尭杜
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-20 22:58:43

 カイトが群衆の歓声を背に受けながら普段は閉ざされている正面中央扉口からレザレクション大聖堂の中へ入ると、身廊の入り口付近で待っていたノンノがカイトに向かって軽く右手を挙げてみせた。

 屈託のない明るい笑みを浮かべるノンノの隣には、穏やかに微笑むピリカの姿もあった。

 カイトがノンノの合図に応じて近付くと、ノンノはトーンが高く軽い印象を持った声で名乗った。

「あたしは、ノンノ。あなたがカイト卿なんだね」

 ノンノはニカッと歯を見せる笑みを浮かべながら、カイトへ右手を差し出した。

「はじめまして。ノンノ卿。カイトです」

 握手に応じたカイトは小柄なノンノの右手が想像よりもさらに一回りは小さいことに驚いたが、それを顔には出さないように努めた。

「あたしのことは、ノンノって呼び捨てでいいよ。敬語もいらない」

 ノンノが持つ愛らしい雰囲気と裏を感じさせない口振りに触れ、すぐに好感を抱いたカイトは素直に応じた。

「……分かった。ノンノ、これからよろしくね」

「うん!」

 ノンノは明るい笑みを浮かべたまま、コクリと大きくうなずいた。

「ピリカと申します」

 ノンノの隣に立つピリカが、カイトに向けて深々と頭を下げる。

 フランクで距離の近いノンノとは対照的に、耳にやさしく届くハスキーボイスで名乗ったピリカは落ち着いた物腰だった。

 ぷっと吹き出したノンノが、告げ口する口調でカイトにピリカを紹介した。

「ピリカはマジメなふりが上手いけど、エッチなことにはすっごい積極的だから気をつけてね」

「ノンノ! 初対面の、それも首席魔道士になるカイト卿の前で、なに言ってるの!」

 ピリカが慌ててノンノをたしなめるが、ノンノは全く悪びれる様子もなかった。

「そんなのどうせ、すぐにばれるんだから、早いほうがいいじゃん」

 ノンノとピリカのやり取りを微笑ましいと感じたカイトは「もう少し見ていたい」とも思ったが、これから叙任の儀式と宣誓が始まるというタイミングの今は、ピリカに助け船を出して会話を抑えておこうと判断した。

「えっと……はじめまして、ピリカ卿。カイトです。よろしくお願いします」

 カイトが右手を差し出すと、ピリカは微笑みを返して握手に応じた。

 ノンノよりもわずかに背が高いほどで小柄なピリカの手は、小さくはあったがカイトにとっては「しなやかな手」という印象の方が強かった。

 先に身廊の奥へと進んでいたエルヴァが、

「おーい。挨拶はあとでゆっくりね」

 と三人に向かって声をかけた。

「あっ、はい!」

 慌ててエルヴァの声に応じたカイトは、握手したままのピリカに「では、後で、ゆっくり」と伝えながら軽く会釈して握手を解くとエルヴァに駆け寄った。

 大聖堂の主祭壇へと続く身廊を奥に進むと群衆の喧騒も遠くなり、カイトを包む空気は大理石の冷たく固い静寂へと変わった。

 女王セルリアンと枢機卿が、高座にある主祭壇へと静かに歩み寄る。

 主祭壇の前に位置して聖域を示す内陣に敷かれた真紅の絨毯の左右に、顧問であるエルヴァを含めたトワゾンドール魔道士団に属する七名の魔道士が席次に合わせて並び立つ。

 欠席となった五名が立つ位置は空けられていた。

 カイトが真紅の絨毯の中央に立つ。聖域として機能する内陣の空気が一層ピンと張りつめる。

 主祭壇に立つ枢機卿が厳かに告げる。

「彼が、ミズガルズに生きとし生けるもの、すべてのものの守護者とならんことを」

 カイトが主祭壇に歩み寄り、主祭壇の前でひざまずく。

 セルリアンが主祭壇に祀られた長剣を手に取り厳かに告げる。

「まさに魔道士とならんとする者に、真理を守るべし、ミズガルズの祈りかつ働く人々すべてを守護すべし」

 セルリアンが鞘から抜いた長剣をカイトに手渡す。

 カイトは長剣と鞘を順に受け取り、長剣を鞘に収める。

 セルリアンがカイトに近寄り、カイトの腰に鞘を帯びるためのベルトを巻く。

 カイトはそのベルトに鞘を着けると、三度、長剣を引き抜き鞘に収める動作を繰り返す。

 ベースとなった騎士の佩剣の儀式に沿った一連の動作によって、叙任の儀式が完了する。

 叙任の儀式を終えたカイトは、次いでトワゾンドール魔道士団への入団に際する宣誓へ移った。

 カイトが暗記していた宣誓文を暗唱する。

「我は心ねじけたる者の邪を懲らしめ、我は無垢たる者の善を守らんがため、魔法を振るうを許し給うたなれば、我は民を庇い護らんがため魔道士の掟を心に定め、常に善を志しめ、人を傷つくるに魔法を振るうことをなからしめ、正義と法とを守らんがため、これを振るわせしめん」

 カイトの宣誓をもって、叙任の儀式と宣誓からなる「叙任式典」が終了する。

 トワゾンドール魔道士団に属するカイトを含めた八名の魔道士が身廊の入り口付近へ移動すると、待機していた新聞社に依頼された写真技師による記念撮影が行われた。

 記念撮影を終えたトワゾンドール魔道士団のメンバーは、正面中央扉口から大聖堂を出ると群衆の大歓声に応えた。

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